離任のご挨拶

令和2年10月3日
 
                                                                                         

  2018年10月8日に当地アディスアベバに着任して以来ちょうど2年が経過し,今回任期を終え 帰国することになりました。以前からエチオピアには憧れと神秘を感じてきたので すが,2年間当国で過ごしたことにより,その通りの国であることが分かるとともに,人々が豊か な明日を目指して努力している国であることも実感をもって知ることが出来ました。

 最後の半年間は,コロナ禍のために思うように動けませんでしたが,着任後の1年半あまりは, 地方にも出張し,多くの人々と知り合いになれ,各地の実情を目の当たりにす ることが出来ました。ガンベラ州における南スーダン難民キャンプや,オロミア州とソマリ州の州 境地帯にある国内避難民のキャンプ更には,帰還した人々の暮らす村落など を視察し,日本人を含むNGOの皆さんやUNHCR,UNICEFなどの国際機関が大事な働きをして いることを自分の眼で確認できました。例えば、ガンベラの難民キャンプでは、NGOアドラの羽 鳥憲伍さんが、簡易トイレを作る地道な努力を続けてこられました。

 首都アディスアベバの唯一のゴミ処理場であるコシェでは、2017年3月に100名以上 の人命を奪う崩落事故が起りましたが、同処理場を美化し安全化するために、福岡大学の松藤康 司名誉教授が段丘を作り地下に貯まったガスを空中に放出する工事を自ら現場に毎日赴き完成さ せました。学者が自ら作業着に身を包んで現場で汗をかく姿は、地元の人々への無言のメッセー ジになったことと思います。松藤先生は、いわゆるウェイストピッカーズの人々に安全なゴミの集 め方を教えたり、若者には学校へ行くことを奨励したりもされています。陰の英雄(an unsung hero)と呼ばれるに相応しい方だと尊敬しております。

 南部諸民族州のアルバミンチ市から3時間山の中に入ったところにあるボンケという村落に日本 のNGOであるホープ・インターナショナルが上水を引き水道を完成させました。同NGOの近藤史 門さんが村に住み込んで実現したプロジェクトです。添付の写真は、完成式典の際,近藤さんご自 身により撮影されたものです。子供たちが喜ぶ笑顔が素晴らしく,自分も気に入っている写真な ので,私のエチオピア勤務を代表する写真としてここに添付いたします。

 地方への出張は,エチオピアが如何に美しい国であるかを実感する機会をも与えてくれました。 アルバミンチの緑したたる風景と山並みは忘れることが出来ません。また,ア ディスアベバからわずか2時間足らず自動車で走っただけで訪れることが出来るデブレ・リバーノ スでは,アメリカの大峡谷に匹敵するような風景と,13世紀のエチオピアの聖 人テクレ・ハイマノートの創建した僧院とがあり,風景と歴史を一緒に味わうことが出来ます。

 今は,コロナ禍で外国からの観光客を受け入れにくい状況にありますが,コロナ禍が克服され たあかつきには,エチオピアが豊かな観光資源を活かし,これを外貨獲得にも つなげることが出来たらと願わずにはいられません。シバの女王とユダヤのソロモン王の間に生 まれたメネリク1世がユダヤから持ち帰ったとされるモーセの十戒が刻まれた石 板(いわゆるThe Ark of the Covenant)を納める聖櫃がアクスムの教会に保存されているとさ れ,毎年ティムカットの祭日に聖櫃がご開帳になり,街路を練り歩いた後に屋外 の天幕の下に安置されます。全国各地の教会でも聖櫃の複製が同様にパレードされた後に屋外の 天幕の下に安置され,同時に聖化された水が集まった人々に振りまかれます。 こうした伝統は,聖書に親しんで育った欧米社会の人々のロマンと好奇心を喚起するものであり, エチオピアの魅力の源泉として,大いに観光のポテンシャルにもなり得るものであると確信してお ります。

 最後に,大統領官邸(ジュビリー・パレス)の日本庭園について触れたいと思います。ハイレセ ラシエ皇帝は、1956(昭和31)年に戦後初の国賓として訪日しましたが,その際,日本庭園の 美しさに魅せられ,これを自らの宮殿に再現したいとの希望をもつに至り,日本から技術者を 呼び寄せ,足かけ6年をかけこれを完成させます。その技術者が橋本陞(のぼる)先生であり,私 も東京でお目にかかりました。実は,この庭園(茶室を含む)の復興をサヘレ ワルク大統領から依頼され,これを実現することが私の課題になりました。しかし,コロナ禍も あって,それが叶う前にエチオピアを離れざるを得なくなりました。私自身, 今後とも本件に関わり続けますが,これからの人々が是非これを引き継いで実現してほしいと念 じております。

 エチオピアにご縁のある邦人の皆様が,この国の政治・経済にとどまらず,その歴史・文化に関 心を持たれると同時に,現在はコロナ禍で色々制限があるとは思いますが, 当地での生活を満喫され,エチオピアの魅力を味わう機会に豊かに恵まれますよう念じております。 私も,コロナ禍が克服されたあかつきには,是非戻ってきて,エチオピアをより深く味わいたい と思っています。また,エチオピアの人々の努力と邦人を含むNGOや国際機関 の努力とが相まって,この国が将来,より豊かな国になっていることを期待しております。

 皆様,色々お世話になりました。またの再会と皆様の毎日が楽しく充実したものであることを お祈りいたします。
                        
2020年10月  在エチオピア大使 松永大介